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国連再考 第2部 (6) ‐ 真摯な決意
2003年09月15日
 国際連合の創設を正式に決める全連合国会議が一九四五年四月にサンフランシスコで開かれ、「戦後世界の平和と安全」への希求が語られたとき、日本では米軍の連日の爆撃で皇居や明治神宮までが焼かれ、「本土決戦」や「一億総玉砕」が叫ばれていた。

 サンフランシスコ会議が同年六月に国連憲章への五十ヶ国の調印を得て、国連を事実上、スタートさせたときも、日本は唯一の枢軸国として連合国への血みどろの抗戦を試みていた。沖縄の日本軍が全滅したのは憲章調印のわずか四日前だった。

 国連の出発点でその国連を作った連合国と戦争をしていたのは全世界でも日本一国だったのだ。平和のシンボルのような国連の誕生の後に、日本に対してはその国連を担ったソ連が攻撃をかけ、米国が原子爆弾を落とすという皮肉でもあった。

 この歴史のコントラストは改めて国連という組織の基本の性格を物語り、日本と国連との特殊な相関を照らし出している。

 だがサンフランシスコ市内のオペラハウスで開かれた同会議にかける当時の世界各国の期待は熱かった。二つの世界大戦での人類の惨劇と悲劇を決して繰り返さないために、世界各国が共同して平和と安全の維持にあたり、不戦を誓うという決意は真摯だったといえる。

 同会議はそれまでの流れのとおり米国、イギリス、ソ連、中国という四大国が他の諸国を招待するという形をとった。「4人の警察官」の基本は依然、貫かれていた。ただし主役の米国ではルーズベルト大統領が会議の開幕の十三日前に病死して、ハリー・トルーマン副大統領が継承した。会議が始まって二週間ほどでドイツが降伏し、国連づくりに勢いをつけた。

 国連憲章は国連の正式発足への手続きとしてフランスを含めた五大国と調印国の過半数がそれぞれ自国で条約として批准せねばならなかった。最も心配された米国でも上院は四五年七月、八十九対二の圧倒的多数で国連憲章の批准案を可決した。

 憲章が決めた国連のメカニズムでは国連自体が歴史上、初めての国際機関として独自の軍隊を持ち、平和の維持や執行にあてることになっていた。国連への加盟は全ての主権国家が大小を問わず、平等に、一国一票の権利を有することとなった。

 だが総会はあくまで「勧告」の権限しかないのに対し、安保理事会は「執行」の権限を与えられ、しかも平和と安全に関する案件は全て安保理が優先し、独占してまず扱う権利をも託された。その上に安保理では常任理事国5ヶ国それぞれが拒否権を有し、いかなる提案でも一国がノーといえば、葬り去られることとなっていた。平等であって、平等ではない国連の最大特徴がここにあった。

 しかしそれでも四五年十月二十四日、加盟国の半数以上の国連憲章批准が終わり、国連が正式に発足したとき、この新国際機関こそが以後の世界の平和を守る実効組織だとする高い期待が全世界に広まった。同年八月には日本もついに降伏し、長く苦しい世界大戦もやっと終幕を迎えていた。

 そうした世界情勢の背景の下、国連は戦後の新時代の輝く平和の守護者としてあがめられたのだった。国連の長い歴史を今振り返るとき、こうした熱狂に包まれたスタート時こそ、最高の黄金時代だったといえるようだ。

 しかしきらきらした理想がどんよりとにごる現実にさえぎられるのに長い時間はかからなかった。国連独自の軍隊という壮大な歴史的実験は、着手さえ出来ない事が判明したのだ。

 「国連軍」の構想は国連憲章の第四十二条から四十七条あたりまでの規定できわめて具体的に決められていた。国連の必要に応じて加盟各国が随時に出す平和維持軍とは異なり、国連指揮下の常設の平和と安全のための軍隊なのである。この国連軍は軍事参謀委員会により結成され、運営される事になっていた。軍事参謀委員会は安保理常任メンバーの五大国の参謀総長により構成される。五大国から空軍、陸軍、海軍それぞれどれほどの兵力と装備の部隊を募り、全体としてどんな国連軍を編成するかはこの委員会で決められることになっていた。

 だが国連の発足一年余りで米国やソ連によるこの軍事参謀委員会の討議が破綻してしまったのである。


古森義久氏 産経新聞2003年9月15日付朝刊記事

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