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【正論】中国には通じぬ「靖国参拝」の意味 - 中国軍事専門家 平松茂雄
2006年03月17日

なぜ執拗に批判続けるか


 去る3月7日、中国の李肇星外相が北京の人民大会堂での内外記者会見で、日本の政治指導者の靖国神社参拝を激しく非難するとともに,日中関係改善のカギは日本の政治指導者が誤った行動を正すことだと述べた。

 これに対して、外務省は謝罪を求めるため、王毅駐日大使に外務省に出頭するよう数回電話したにもかかわらず拒否され、電話で抗議した。また安倍官房長官は参議院予算委員会で李外相の発言を強く批判したと報道された。

 これは、我が国の国内政治に対する干渉であるにもかかわらず、この問題はそれで終わりになってしまったようである。

 9日付産経新聞社説「主張」は、「日中関係を改善したければ、『ポスト小泉』候補者は靖国参拝をするなと言わんばかりである」と不快感を表した。だが、「靖国問題」は、我が国と中国とでは全く異なる次元の問題であることを日本人ははっきりと認識する必要がある。

 日本人にとって「靖国参拝」は、国家の命で戦場に赴き、不幸にして戦死した人達を国家が慰霊することである。「靖国参拝」で、わが国では、戦没者の慰霊は当然ではないかとか、慰霊の仕方にはその国の伝統や文化の違いがあるといった論議がある。それはそれで間違いではない。だが中国にとって「靖国問題」の目的は、そのような処にはない。

 中国にとっては、「靖国参拝」は日本を動かすための戦術である。この点の認識が日本側に欠落している。それ故「靖国参拝」を日本人の問題として中国に説明しても、通じないのは当然なのである。中国が「靖国問題」を執拗に持ち出している背景には,何があるかをつかむことが必要である。

国家の分裂は"思うツボ"


 産経の「主張」は、中国に「自らの指導者選びにここまで露骨な干渉を許した」のは、「その意向に迎合する政治家などが存在するため」である、と指摘している。まさにその通りである。中国は「靖国問題」を利用して、日本の体制の切り崩しを図っており、日本の体制はいまやなし崩しにされつつある。

 筆者は、「靖国問題」を中国の良いように利用させている日本の体制の側に問題があることを指摘したい。だがそのような経験は今回が初めてではない。筆者は戦後の日中関係を、徳川家康の「大坂の陣」になぞらえて説明してきた。まず外堀を埋め、次に内堀を埋めれば、本丸は戦わずして陥ちる、と。

 この場合、外堀はわが国の共産党、社会党、総評を先頭とした労働組合、朝日新聞、雑誌「世界」などのマスコミを中心とする反体制勢力とそれを支持する「人民勢力」で、内堀は政府・与党、すなわち自民党とそれを支持する勢力、特に経済界である。

 戦後50余年の日中関係で、日本は「中国問題」で国論が真っ二つに割れたことが2回ある。

 1回目は1951年のサンフランシスコ平和会議で、この時、中国を代表する政府は中共か国府かで国論は割れた。2回目は72年の日中国交回復の時であるが、この時の伏線は、61年に毛沢東がわが国のある社会党議員との会談で述べた発言にある。毛沢東は、複数の親中国的な自民党議員の名前を挙げ、こう語ったという。

 「日本政府の内部は足並みが揃っていない。主流派があり、反主流があり、彼らは完全に一致していない。彼らの割れ目がもっと拡大して両者が対立し、衝突することは、中国にとっても日本の人民にとっても有利である」

生かされない過去の教訓


 その間の経緯は書く余裕がないが、日本は内堀を埋められ、自民党内では、佐藤内閣ではもはや中国問題が解決できないとする流れが支配的となり、「ポスト佐藤」をめぐって自民党総裁選挙に出馬を予定していた実力者が、中国問題で佐藤内閣を批判する言動をとるようになった。

 換言すれば中国問題の解決は「ポスト佐藤」の最重要課題になった。本丸は戦わずして陥ちたのである。

 現在の日本を見ると、内堀の中で浮き足立っている人達の姿が浮かびあがってくる。それは、首相の靖国参拝に注文をつけている自民党や経済界の首脳であり、マスコミ等々だ。内堀にいる人たちが、中国の利益を代弁し、国論が分裂し、政界が混沌としてきている。

 わが国にとって何よりも必要なことは、「靖国参拝」の意味を中国に説明することではなく、中国の意図を見抜くことである。

2006年03月17日 産経新聞13面記事
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