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国連再考 第1部 (4) ‐ 礼賛の裏側
2003年07月31日
 「日米安保条約も米軍基地も自衛隊も、すべて破棄し、日本の安全の保障には中立的な諸国の部隊からなる国連警察軍の日本駐留を提案したい」
 「約二十六万に及ぶ日本の自衛隊を警察予備隊程度にまで大幅に縮小し、それを駐日国連警察軍の補助部隊として国連軍指令官の指揮下におき、一切の経費は日本国民が負担する」

 東大教授の坂本義和氏は一九五九年、こんな日本の防衛構想を発表した。 東西冷戦の厳しい時代に日米安保に反対し、中立・非武装を説き、国連軍の日本常駐を求めたのだった。 常駐軍隊を出す中立的な国としてはデンマーク、ユーゴスラビア、コロンビア、インドネシアなどをあげていた。

 この提案は日本が自国を守るのに自らは経費を出すだけで、国連に無制限で防衛の全てを委ねるというのだから、革命的だった。

 日本社会党の書記長だった石橋政嗣氏も一九八〇年に発表した 「非武装中立論」 で日本の安全保障の国連への委任を主張していた。
 「(日本など)各国の安全保障はあげて国連の手に委ねるのが最も望ましい。 公正な国際紛争処理機関として国連に強力な警察機能を持たせるべきだ。 国連は自らは非武装たることを宣言した日本国憲法にとっては本来、不可分の前提であるはずだ」

 一橋大学名誉教授の都留重人氏は九六年に刊行した 「日米安保解消への道」 という書で沖縄に国連本部を誘致することを提唱していた。
 「日米安保も米軍基地もない平和な沖縄をつくるための最適の具体的措置は国連本部を沖縄に誘致することだ。現在の沖縄こそが国連本部の新在地として、米軍基地も完全に撤去された『平和の拠点』となるにふさわしい」

 こうした表明はいずれも日本の防衛は日米同盟や自衛隊を排して、そのかわりに国連に依存すべきだ、という政策の提唱だった。 日米同盟・自衛隊と国連とを二者択一とし、前者をなくして後者を採用すべきだという主張でもあった。

 主権国家の必須要件たる自衛という行為を最初からすべて国連に外注するというのは政策論としてはあまりにナイーブである。 その主張を文字どおり受け取れば、戦後の日本の果てしなき国連信仰だともいえよう。

 だがこの「信仰」は明らかにぎらりとした政治的主張とも一体になってきた。 日本の安全保障政策で「国連」を強調することは多くの場合、「日米同盟・自衛隊」への反対を自動的に意味してきたからだ。 日米同盟への反対の政治標語の一部として「国連」がよく使われてきた、といえよう。 国連の効用さえあれば、日米同盟も自衛隊も必要ない、という主張が堂々と叫ばれてきたのである。

 だがそうした主張は日米同盟・自衛隊支持派からは辛辣に批判される。 拓殖大学教授の佐瀬昌盛氏が語る。
 「日本の安全保障や防衛を正面から考えたくない、取り組みたくないから国連を引き合いに出すというのは、国連にとっても日本国民にとっても不敬な話だ。 他のどの国でもまず自国の安保を考えたうえで国連を考えている」

 「日本の安全保障は国連に」 という趣旨の主張は 「国連幻想」 「国連神話」 「国連信仰」 といった言葉で表現される傾向によく帰されてきた。国連の現実を理解しない無知がその根源だとする見方だった。 ところが物事はそれほど単純ではないとする指摘もある。 杏林大学客員教授の田久保忠衛氏が評する。
 「日本の安全は対米同盟よりも国連のような多国間機構に頼るべきだと主張する側も、実際には国連が無力であることをよく知っているのだと思う。 最初にまず日米同盟への反対という主張があり、その主張を効果的にするために国連を持ち出すのだ。 国連の無力を知りながらも、日米同盟への反対の武器として利用するのだと思う」

 素朴にひびく国連礼賛の背後には実はどろどろとした政治の思惑や狙いがひそんでいる、というわけだ。

 いずれにしても、国連はこのように日本の安全保障政策の基本とも複雑にからみあってきた。 その政策論議では国連の演じる役割は大きかった。

 だが国連自体、発足からすでに五十八年を経ても、坂本義和氏が求めたような一国の防衛を丸ごと請け負う常駐警察軍や、その基盤となる集団安全保障は一向に機能していない。


古森義久氏 産経新聞2003年7月31日付朝刊記事

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