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資源小国の挑戦 第1章 共生に向けて(5) 次代へ走る燃料電池車
2006年02月06日
 1月3日の早朝、恒例の「箱根駅伝」の復路スタート地点となった芦ノ湖周辺の気温は、箱根山から吹き下ろす寒風でマイナス0.8度の氷点下を記録していた。前夜に降ったみぞれは道路の所々に氷の膜をつくり、路面温度を更に下げた。

 「このまま気温は下がりつづけるのだろうか?」。自動車メーカー、ホンダの最先端技術研究所の清水潔主任研究員は、大会本部車となった燃料電池車「FCX」のハンドルをギュッと握りしめた。瞬間、清水さんの顔は、最先端の環境技術を次の世代につなげる「もうひとつの駅伝」のランナーのそれになった。

 氷点下のエンジンスタート。普通のガソリンエンジン車にとっては何でもないことだ。しかし、世界の新エネルギー研究者はFCXが氷点下でスタートを切ることに熱い視線を向けていた。なぜならFCXは、世界で唯一、氷点下で始動できる燃料電池車だからだ。


 燃料電池車の仕組みは水の「電気分解」の逆。水に電気を通すと酸素と水素に分かれる反応を逆手にとり、酸素と水素をスタックと呼ばれる装置の中で反応させて、熱と電気を取り出す。排出されるのは「水だけ」というクリーンさが、究極の低公害発電システムといわれるゆえんだ。

 米国では宇宙開発の一貫で研究開発が進んだ。ただ、宇宙では排出される水が飲み水になるが、車には最大の障害になった。氷点下では凍り付いてしまって機能しなくなる可能性があるのだ。

 「実用化したメーカーが世界を制する」。そんな言葉で世界中の主要メーカーが開発競争に拍車をかけたが、もともとが宇宙開発技術。莫大な研究開発費用を捻出するには巨大メーカーにならないとまかないきれないという「恐怖」が、この10年、世界の自動車業界再編までも促した。

 世界的には中堅のホンダに、市場からは「このままでは生き残れない」という声すら出た。当時の吉野浩行社長はだが、こう言い続けた。「二人三脚よりは、一人で走った方が絶対速い。ウチは知恵で勝つ」


 石油などの化石燃料の依存度が高い日本では、新たなエネルギー確保が大命題。しかもそのエネルギーを利用する場面で、環境負荷の低減も不可避だ。燃料電池はそんな日本のエネルギー需要の課題を克服する有効な手段になる。

 大きさや対振動性など、自動車ほど厳しい仕様が求められない家庭用なら普及は速いのではないか-。そこに目を付けたのが東京電力や東京ガス、新日本石油などのエネルギー各社だった。

 東京ガスはタンスと小さい本棚ほどの大きさの燃料電池システムを開発、昨年、リース販売にこぎつけた。

 自動車のように水素そのものを利用するのではなく、都市ガスから水素を取り出して燃料にする。そのため、ガス管など既存の都市ガスインフラが使え、すぐに一般家庭で利用できるのが利点だ。

 同社社員の広戸正之さんは昨年、「自宅に発電所を持つ気分」でリースを申し込んだ。ベランダに置かれたシステムは、電気を作り出す過程でできた熱でお湯も沸かす。1時間に1キロワットの発電と、常時、60度の湯が200リットルのタンクに蓄えられる。

 手元のリモコンには電気利用料が一目でわかる表示が出る。広戸さんの中学生と小学生の二人の子供は「それを見て、電気の利用を強く意識するようになった」。”ベランダの発電所"は、子供達の省エネ意識を刺激した。


 そんな燃料電池普及の前に大きく立ちはだかるのがコストだ。とくに燃料電池車はまだまだ個人で手の届く価格ではない。

 平成14年末。小泉純一郎首相の要請で首相官邸に燃料電池車を納車したトヨタ自動車の奥田碩会長は価格を尋ねられ、笑いながらこう答えた。「1億200万円です」。このうち車両代は200万円。進歩したとはいえ、今もその状況は大きくは変わっていない。

 一段の小型軽量化、安全性向上など課題もまだまだ多い。本田技術研究所の藤本幸人上級研究員はそれを駅伝に例え、「今は二区」という。

 世界のメーカーが開発に着手したのが一区。二区にたすきをつないだところで氷点下始動を実現した本田が先頭に踊り出た。しかし箱根駅伝で言えば「逃げ切りも可能なら、一気に抜かれるかもしれない」のが二区の怖さでもある。

 今年、大会本部車のハンドルを握った清水主任研究員は、沿道で学生を応援する声の中に「ホンダ頑張れ、FCXも頑張れ」という子供の声を聞いて心が震えたという。「何としてでもトップでたすきをつなぐんだ」。清水さんは今、改めて燃料電池開発という”駅伝”を走る自分を意識している。

2006年2月5日 産経新聞特集
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