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中国の脅威と靖国の真実
2005年12月25日
 大幅かつ着実に増強されていく中国の軍事力が少なくとも東アジアの脅威であることを否定する識者は、ワシントンではまず見当たらなくなった。今年6月にブッシュ政権のラムズフェルド国防長官は「中国は自国への軍事脅威がないのに、なぜこれほど大幅に軍事力を増強するのか」と問いかけ、中国の軍拡を「アジア地域の他国の近代的な軍隊への脅威」と特徴づけた。翌7月に公表された国防総省の「中国の軍事力」年次報告書もこの軍拡を「長期的な地域の脅威」と呼び、ミサイル、潜水艦、戦闘機などの増強に警告を発した。

 なにしろ中国は核兵器保有国の中でも大陸間弾道ミサイルなどの戦略核兵器の規模をなお拡大する唯一の国である。人民解放軍の朱成虎少将は同7月、その戦略核ミサイルを米国との台湾をめぐる軍事衝突では先制攻撃の形でためらわずに使うと言明した。それでなくとも中国は国際紛争の解決に軍事力を容易に使うという攻撃的な軍事国家体質を旧ソ連、インド、ベトナムなどへの大規模な軍事攻撃で歴史的に証明してきた。

 だから中国の周辺に位置して中国と紛争要因を抱える日本のような国にとって、今の中国の目覚しい軍拡が脅威であることには議論の余地がないだろう。

 米国防総省のここ数年の発表でも中国は日本を射程におさめ、日本国内の要衝に照準を合わせた中距離ミサイルを数十基も配備しているというのだ。

 その中国の軍事力に関して、ワシントンではこのところ東シナ海での日本との軍事衝突への可能性の指摘が多くなった。

 11月中旬には米国議会の超党派政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」が年次報告書の中で、日中両国が尖閣諸島の領有や海底ガス田の開発をめぐる対立から東シナ海で軍事衝突を起こしうる危険を警告した。報告書は中国側の潜水艦その他の艦船による日本側への攻撃性の強い侵入の実例をあげ、「中国側の挑発の頻度と攻撃性の高まりが日本との軍事対決を招く危険がある」として、明らかに中国側の脅威に注意を喚起した。

 12月上旬には中国の軍事動向を分析する研究機関「国際評価戦略センター」が日中両国の海軍力バランスについての報告書を発表し、中国が海軍を急速に増強し、東シナ海での日本との軍事衝突の危険を高めている、と警告した。中国は伝統的に海洋の領有権紛争では自国の軍事力が確実に優位に立ったと判断した時に攻撃に出る傾向があり、実際に潜水艦や対艦ミサイルでは日本に差をつけ始めたというのだ。

 この現状で民主党の前原誠司代表がワシントンでの演説で中国の軍拡を「現実的脅威」と呼んだのは当然だった。だが同じ懸念を北京で表明しようとすると、それを理由に胡錦涛国家主席ら要人との会談を拒まれた。対話の扉を閉ざされたのだ。米国での前原発言に対しては民主党の内外でも反発が起きた。マスコミでは、日本の安保や政治に関して、中国に反対することにはまず全て反対する朝日新聞が予想通り「外交センスを疑う」と非難した。

 だが中国当局による前原氏のこの扱いは、日中関係の真実を思わぬ形で露呈させ、朝日新聞式の日中関係論の虚構を砕く結果となった。

 朝日新聞は日中関係の悪化も、日中の対話の扉が閉じられるのも、みな小泉純一郎首相の靖国参拝が原因だとするキャンペーンを打ち上げてきた(同紙の12月6日、14日などの社説がその一端)。首相が中国の「言明」に従って靖国参拝の中止を言明すれば、日中関係は一気に改善され、対話も復活する、という示唆が明白だった。

 ところが前原氏は靖国に関しては参拝はせず、A級戦犯の分祀を唱え、中国の要求と全く同じ立場を表明しているのだ。だがそれでも、中国の軍拡について当然の懸念を述べただけで中国側から対話の扉を閉ざされたのである。この事実は朝日新聞式の「首相の靖国参拝→日中の対話の停止と関係全般の悪化」「参拝中止の言明→対話の進行と関係全般の好転」という因果関係が実は全くの虚妄であることを証明した。

 前原氏は靖国に関して中国の意を十分に満たしているのに、対話を閉ざされたからだ。靖国参拝の如何にかかわらず、気に入らない言動をとった相手は排そうとする中国の対日態度の年来のパターンが露呈されただけであり、日中間には中国の軍拡その他、靖国以外の対立案件が多々あるということである。

 日中関係のこの単純な真実をわかりやすく提示する事態を生んだだけでも、前原氏の訪米と訪中は有意義だった。

【ワシントン=古森義久】
2005年12月25日 産経新聞4面
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