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国連再考 第6部 (06) ‐ 総裁への脅威
2003年12月22日
 「ウォルフェンソン総裁はすぐ怒りを爆発させ、公式の場でも世銀の部下を激しく叱責して屈辱を与える。 彼は部下に説く価値観や振る舞いを自分では実践しない。 世銀の管理職はみな恐怖におびえている」

 ウォルフェンソン氏は二〇〇〇年に世銀の総裁に再任された直後、世銀内部の士気低下の原因について率直な意見を無署名で出すことを職員全般に求めた。 その結果、中東・北アフリカ局の幹部職員から提出されたのが総裁自身に対するこんな激しい非難だった。 いまも世銀内外で語り伝えられる有名なメモである。

 同氏は組織の統率に鉄のように厳しく、内部での自分への批判や反対をがんとして許さないという。 自分に賛同しない部下は遠ざけ、気に入った人間はどんどん登用するとの定評がある。 その登用組でいま注目されるのは専務理事のシェンマン・ザン氏である。 現在は四人いる専務理事は実務面で総裁に次ぐトップであり、中でもザン氏は担当が最も広範のため、世銀全体でも総裁に続く事実上のナンバー2だともされる。

 そのザン氏は実は中国政府から送り込まれた章晟曼という中国人である。 最初は世銀で中国政府を代表する理事だったが、ウォルフェンソン氏に気に入られて副総裁から専務理事と異例の大登用となった。 世銀の加盟国でも日本のような大口出資国と異なる借り入れ国の中国政府代表が世銀全体でも二番目の権力を握る座につくのは異様だという。 日本人の勝茂夫副総裁も章氏の直属の部下の形になっている。

 しかしウォルフェンソン氏がいくら組織を自分が頼れる人物で固めても、世銀への内部からの批判は絶えない。 組織の内部の中枢にいた人物が辞任してすぐ告発のような糾弾を次々に爆発させるのがこのところのパターンとなっているのだ。

 主任エコノミスト兼副総裁だったジョセフ・スティグリッツ氏の世銀・IMFの大批判とほぼ同じ時期に主任エコノミスト顧問のラビ・カンブル氏が抗議の退職をした。 カンブル氏は世界的に知られたインド出身の経済学者で、世銀では根幹の政策をまとめる「世界開発報告」の作成を任されていた。 だが世銀やIMFの従来の方針への率直な批判を同報告に盛り込むことを世銀の上層部から止められたことに抗議して退職したといわれる。

 専務理事まで務めた末に九九年に辞任した米国人女性学者のジェシカ・アイホーン氏も外国雑誌に長文の論文を発表し、「世銀は達成不可能なビジョンを抱いている」と正面から世銀のあり方を批判した。 スペイン政府の経済次官などを務めた後に世銀の副総裁となったマヌエル・コンテ氏は二〇〇一年、「世銀の運営がうまくいっていないという意見を述べたら総裁に降格人事で報復された」という抗議を公表した。 要するに世銀ではこの種の内部告発的な批判の表明が絶えないのである。

 しかしいま世銀を守る側のウォルフェンソン総裁らにとっての最大の脅威は米国の政府や議会からの批判であろう。 二〇〇一年一月に誕生したブッシュ政権は大統領自身が掲げる保守主義の伝統からしても開発途上国の貧困に対して巨額の公的資金の相手国政府への供与というODA(政府開発援助)方式の世銀の基本にきわめて懐疑的なのである。

 ブッシュ政権や議会両院で多数を占める共和党の保守派に近い研究機関「ヘリテージ財団」は世銀創設五十周年の九五年に「世銀と経済成長=失敗の五十年」という調査報告を出して、世銀不要論を打ち出した。 世銀の手法では貧困は救えないとして、民間資金での開発途上国の生産性向上への切り替えを訴えていた。

 ブッシュ政権でも初の財務長官となったポール・オニール氏が二〇〇一年五月の議会証言で「世銀の活動は拡散しすぎて途上国の国民所得の向上という最大の目的を果たしていない」と批判した。 世銀が主体としてきたインフラ建設のプロジェクトは民間の融資でもっと効率よくできるはずだ、とも主張した。

 そしてブッシュ大統領も同年七月、世銀の途上国援助の半分を現行の貸し付けから贈与へと切り替えることを提案したのだった。

 この提案は政策的にはいまの世銀のあり方の全面否定にもつながっていく。 世銀への資金提供では世界最大の額を担う米国の大統領のこの提案は世銀に衝撃を与えたのだった。


古森義久氏 産経新聞2003年12月22日付朝刊記事

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